最後の春
「これを長野が?」

イラストを見ていた長原が裕の顔を見た。長原の家まで自転車を飛ばした裕は息を切らしながら優美から聞いたことを伝える。裕の話を聞き終わった長原は

「で、ジッとしてられなくて俺んとこに来たわけだな」

と言い笑った。

「ああ、電話でも良かったんだが早く見せたくて来た」

裕の行動を見透かしてたように長原は麦茶を裕に差し出した。裕はそれを一気に飲み干し

「今日も言ったけど、今度の日曜に夢ヶ咲に行ってみようと思うんだが一緒に行かないか?」

裕の提案に長原は

「お前の誘いを断わると思うか?」

と言い笑った。

「ありがとう。でも何処にいるかもわからないから収穫がないかもしれないぜ?」
「手掛かりはある」
「手掛かり?」

裕が聞くと長原は広告を指差して

「縁日って商工会とか神社が主催してやるはずだよな。そこを調べてみれば長野のことがわかるかもしれん」
「そうか!自然に縁日なんか開催されないから仕切ってるとこがわかればイラスト描いた長野のことがわかるかもしれないんだな」
「そういうこと、んでお前はそれをわかる可能性が高い」
「俺が?」
「ああ、お前の親父さんが協力して長野の親父さんと連絡とれたら楽なんだ」
「親父が協力してくれるかな?」

裕はそれが不安だ。仕事が絡んだ光司は家より更に真面目になる。いくら久し振りに挨拶したいと伝えても私用を許可してくれるだろうか?

「ダメなら俺たちでやるしかねぇよ」

長原は光司の性格を知っているので次の方法を考えてくれている。裕は少し安心して家へ帰った。
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