最後の春
「性格なんて気にしてどうすんの?大事なのは共通の価値観よ」
「価値観?」
「例えば、あんたが面白いと思ったこととか感じたことがわかってくれる方がいいでしょ?」
「そうだけど…」
「あと、縁があるわよ」
「縁?よくテレビで言われてたビビビってやつ?」
「ビビビかどうかわからないけど、不思議とこの人と結婚してずっと一緒にいるんだろうなぁと、感じるわけよ」
「そうなんだ」
「あんたもいつかこの事がわかる時がくるかもしれないわ」

昌子はそういうとまたテレビを見た。昌子が言うことが本当ならば俺にもいつかこういう時が来るのだろうか?まだよく意味がわからないけど、とりあえず早く行こうと思った。

「ありがと」

思えば、こうやって昌子と話したことは久しぶりだった。さらに、ありがとなんて数年無かったと思う。裕は玄関に行くと財布の中身を確認した。バイト代をおろした方が良さそうだ。

「ちょっと待って。」

昌子が裕を呼び止めた。

「何だよ?」
「ハイこれ」

昌子は五千札を裕に差し出した。

「海は寒いから気をつけて」
「何で…?」
「優美から聞いたから。大丈夫内緒にしといてあげるから」

昌子はそういうと笑い出した。あのおしゃべりめ!裕は軽く舌打ちしてお金を受け取った。外に出てみると日差しがまぶしかった。
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