最後の春
「おーい!ここだぁ」

弥生駅に着いた裕を土田・長原は呼んだ。2人とも大きいバッグを担いでいる。

「早いな」
「だから言ったでしょ?」

土田の顔はニヤけている。

「こういうイベントのときは早いのよ」

土田が言うのと同時に長原も声を合わせる。完全にセリフを予想していた長原は一字一句違わないことに笑ってしまった。

「ちょ、長原ちゃん」

土田は少し恥ずかしそうだった。

「ああ、悪い悪い。見事なまでに予想していたのと一致したからつい」

長原は笑いを抑えるので精一杯だ。裕は2人が担いでるバッグに目を向けた。バッグはスポーツバッグでメーカーのロゴが白く入っている。裕がバッグを見ていることに気づいた土田は

「ああ、これ?どう、すごくない?」

そう言うとビデオカメラを取り出した。他にもデジカメやら機材が見える。

「ちょっと借りてきた。こういうのがあった方が良いと思ってね」
「こっちのバッグはお菓子類だけどな」

長原が担いでいたバッグを開くと駄菓子などがある。昨日一日で用意したものだろうか?

「旅にはつき物でしょ?」

土田は笑いながら裕に言った。長原にしても土田にしても皆、同好会のことを考えてくれている。裕は自分が長野のことしか考えてないのかもしれないと思い少し取り残されたような気がして寂しくなった。

「どうしたの?泉ちゃん」
「いや、ちょっとみんなすげぇなと思ってさ。宮田さんは同好会設立のスタートを切ったし、長原は設定を考えてくれてるし土田だってこうやって考えてくれてるのに俺は何ができてるんだろうと思ってさ。」

裕は自分の心境を話してみた。すると、土田と長原は笑いながら

「何言ってんだ?お前は」
「てかさ、俺らなんかより泉ちゃんの方がすげぇよ」
「は?俺なんか大したことないよ」
「いいか、お前のすげぇ所の一つはこうやって自分の気持ちを素直に言えることだ。普通言えねぇよな」
「そうそう、泉ちゃんの良さはちゃんとわかってるし、てか泉ちゃん自身気づいてないのがウケるわ」
「そんな心配しなくても良いからこれからも頼むぜ部長」

長原は笑っている。裕は何か少し救われた気分だった。
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