最後の春
「映画同好会?」
「うん、夢ヶ咲を舞台に何か作れないかなと思ってね」
「良いと思うよ。夢ヶ咲は良い所だし」
「ああ、がんばるよ」

裕が答えると長野は少しだけ笑ってまた会話が途切れた。すると、前方から修学旅行生徒と思われる団体が歩いてくる。背格好からして中学生ぐらいだろうか彼ら横を向きながら話に夢中で裕たちに気づいてない。土産屋などの看板が道路にはみ出しているためギリギリ2列ぐらいで通れるぐらいだが4人~5人列になっている彼らは明らかにこのままでは通ることができない。幸い先に中学生は気づいて道を譲ってくれたが、裕たちとすれ違い様、裕たちに聞こえるかのように舌打ちをし更にわざと聞こえるように

「邪魔だな」
「ああ、なんでこんなとこ歩いてんだ?」

この言葉を聴いた瞬間、裕は怒りで我を忘れそうになった。去っていく中学生に声をかけようとした時、裕の腕を長野がつかんだ。

「慣れてるから」

長野は精一杯の声を出してるようだった。

「え?でも…」
「大丈夫だから」

長野はそう言うと、自分で車椅子を押し始めた。重苦しい空気が裕たちを包む。とにかく裕は自分で漕いでいる長野の後ろに立ちまた車椅子を押し始めた。

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