最後の春
貸しビルに入ると中は今にも切れそうな蛍光灯がチカチカ光っている。佐藤さんは慣れているのか迷わず地下へ続く階段を下りて行く。階段はコンクリートで雨の中誰か通ったのか所々濡れている。

｢何処に行くんだ？｣

裕は佐藤さんに続き階段を下りて行った。すると下には重厚な木で出来ている扉があった。扉には｢サンフェスタカフェ｣と書かれている看板がある。

｢サンフェスタカフェ？｣
｢そ、名前の割に地下にあるけどね｣

佐藤さんは扉を開けると中にはカウンター席しか無くカウンターには白髪の爺さんが新聞を読んでいる。

｢いらっしゃっいませ｣

爺さんは裕たちの姿を見ると奥に歩いて行った。

｢お任せで｣

佐藤さんは席に座ると裕にも座るよう薦めた。裕は何も言わず席に着くと店内を見渡した。店内は全体的に暗く、ジャズが流れている。テーブルや椅子は木目調で出来ており壁には黒人サックス奏者のレコードジャケットが張られている。何処にもサンフェスタという要素が見当たらない。更に言うならばメニューすら無い。

｢ジョン・コルトレーン｣
｢え！？｣

気がつくと爺さんが目の前にいた。裕の手元にはコーヒーが置かれていた。

｢あのレコードジャケットはジョン・コルトレーンのGIANT STEPS｣
｢ジャズ詳しくないけど何かカッコイイですね｣

すると爺さんは少し笑った。裕も少し笑いコーヒーを飲んだ。
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