優しい気持ち
第二章 シャワールーム
「なんかの遠征なんですか?」

床に転がったバスケットボールを手に取り、尋ねる。

「ん?あぁ、これ?違うよ。ただの一人旅。遠征やったら女の子なんか呼んだら怒られるやろな!はっはっは。しかも俺まだまだへたっぴやし。」

「私も高校の頃ハンドボールやってたんだけど、バスケとは関わりなかったかなぁ。」

「なんで?体育館じゃなかったん?」

「うん、私の高校はハンドのコート外にあってね、サッカー部とかととり合いだった。だから体育館のバスケ部とかバレー部とかとは関わりなかったなぁ。」

「ふーん、そっか。ハンドも俺やったことあるで!」

「えっ?部活?」

「いや、クラスマッチ。」

「そっか、クラスマッチか。」

「クラスマッチってわかる?今もあんのかな?」

「あるよ!あ、バスケ始めたきっかけは?」

「そら、スラムダンクやな。」

「やっぱり!」

「間違いないわ!スラダンはみんな見とるよ!俺大好きやもん。」

「私も普通に見てたよ。マンガで。あれ感動するんだよね!」

久しぶりのまともな会話。
何でもないことだけど、何故か気分が軽くなる。

私たちはこの後も盛岡のこととか東京(その人が東京に住んでるから)のこととか、色んな話をした。気がつけば自然と笑顔になっていて、その人と言葉を交わすだけで今までの自分が自分でないように変化していることに気づいた。

部屋に入った時から思っていたが、その人はスラムダンクに出てくる、私の一番好きなキャラクターによく似ていた。

それにしてもその人は楽しそうに話す。
初対面の風俗嬢によくこんなに深い内容を話せるものだ。東京のバーでぼったくられたことや、台湾の風俗店で現地の警察にガサ入れにあいそうになったこと。

もちろんそっち系の話だけでなく、今日高松ノ池に行ったことや、じゃじゃ麺を食べたこと、バスケッとのこと、オーストラリアに行った彼女のこととか真面目な話もしてくれた。

私は高校を卒業してこの仕事に就き、日に日に心が荒んでいく自分をどうしようもないと感じていた。だから、その人が色んな失敗も経て、さらにその先を見ていることがとても輝いていたせいか妬ましく思えた。

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