優しい気持ち
私の太ももにあたっているシャワーの温水。ちょうどいい温度になったところで、その人にシャワーを向けた。

「熱っ!!」

飛び上るように体を反らせ、声を上げたその人。私はとっさにシャワーの口を自分の方に向けた。

「熱かった!?ごめん。」

「びっくりしたー!」

「そんなに熱かった?」

私がいつも浴びている温度はその人にとっては高温だったようだ。

「ごめんね。」

再度、温度を調整し、その人の適温に合わせてあげた。少しだけ背の高いその人。背中の方からもシャワーをあててあげる。

「あったまった?」

「うん。ありがと。」

「ありがとう」、その言葉一つで受ける印象がだいぶ変わる。少なくとも嫌な気持ちにはならない。その人の口調は仕事を仕事として感じさせないような、優しい気持ちにさせてくれる。

私も自然と笑顔がでた。

それからボディソープと消毒液、イソジンを混ぜ、体を洗ってあげる。手の先から順に脇、胸・・・。そして下半身。

「・・・。」

その人の一物は通常状態だと普通のサイズといったところか。

「・・・。」

シーンと静まり返ったバスルーム。私はその人の体を洗いながら、ちらっと顔を見た。

「ん?どしたの?」

「・・・なんでもないです。」

「ねぇ、これ何?」

「ん?どれ?」

どうやら黒茶褐色の液体が気になったようだ。

「あー、これはイソジンだよ。」

「イソジン!?あのうがいのやつ?」

「そう。小学校の頃、保健室とかでも怪我した時塗ってたでしょ。それ。」

「ふーん。なんでこんなの使うん?」

「前の店の先輩から言われたんだけどね、消毒効果が高いんだって。」

「へぇ、そうなんや。」

「あと、性病とかだとこれが沁みるからわかるの。痛くないでしょ?」

「うん、痛くない。」

シャワールームの中でさえ、その人との会話は思わぬ方向へ突き進んでいく。ルーチンワーク化しているこの作業でさえ、どこか楽しく感じさせる。不思議な人だ。

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