優しい気持ち
「なぁ、今日、北見川の河川敷でな、バスケの練習してたんやけど、あそこから見える山はなんていう山?あの雪が上だけ積もってて富士山みたいできれいなやつ。」

「やま?んー・・・。なんだろう。」

「そっか。わかんないか。ならいいや。」

岩手山のことを言っているみたいだったが、その時はわからないと答えてみた。

「はい、じゃあ流すから後ろ向いて。」

「あーい、お願い。」

「・・・。」

「はぁ・・・気持ちいい。」

「寒くない?」

「温かいよ。」

「はい、じゃあ今度は前ね。」

「はーい。」

私は左の手の先から泡を流してあげた。するとその人は突然バンザイをしてきた。

「初めて見た。バンザイする人。」

「だってあれやん。ちゃんと取れんかったらベトベトするやん。」

確かに。中途半端に腕をあげられても落ちるわけがない。もっともだ。これまでの人の行動の方が異常に思えるほど、その人の行動には自信と理論が備わっている。

「ふふっ、そうだね。ベトベトするもんね。」

くすりと笑いながら、残りの部分を丁寧に流してあげた。

「はい、終わり。じゃあ、出て体拭いてて。」

「うん。」

「あ、ここってグラスないの?」

「あー、テレビの下の棚んところにあるで。あれか。ちょっと待っとって。」

そういうとグラスを取りにシャワールームをでた。私は自分の胸と手、指、陰部と順に洗っていった。

「ほれ!うがいやろ。」

「うん。」

そう言うと私はイソジンをグラスに入れ、水で薄めて渡した。その人は二、三回ガラガラとうがいをし、口をゆすいだ。そして体を拭こうとバスタオルを手にした。
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