優しい気持ち
この仕事を始めたきっかけは、生活するための資金稼ぎと、気のない女を抱いてお金を落としていく馬鹿な男を冷笑するため。

そして男不信を貫くための意思の表れでもある。もともと男性不信だったため愛撫されても陰部が濡れることはなく、マグロのように寝ているだけの仕事だ。私にとっては。

ただ時間が過ぎるまでいつもどおり我慢するだけ。

「私ね、昨日辛いことがあって泣いたの。瞳が腫れてるでしょ?」

「ん?」

その人は少し体を起こし、覗き込むようにして私を見た。
じーっと見つめ合う。

「・・・わかる?」

「んー・・・。わからん。普通の瞳に見えるけど。」

「おかしいなぁ。」

「そんなこと言われても・・・。初めて会ったんやで俺ら。」

確かにそうだ。
そんな同意を求められてもその人からしたらどうでもいいことだ。

「プライベートで何かあったの?」

「・・・。ちょっとね。」

「そっか・・・。」

「・・・。」

「・・・ん?どしたん?」

「ううん、何でもない。」

何故だろう。また見つめ合っていた。
不思議な感覚。

その瞳を見つめていると、今日の客の顔だけでなく、過去の記憶さえも忘れていきそうだった。

あの、忌々しい記憶さえも・・・。
 
「ん?」

「なんかムリしてない?」

「・・・。どうして?」

「瞳が悲しそうやん。」

「そうかな・・・。」

時々、ものすごくキョリが近くに感じる。
心のキョリが。

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