優しい気持ち
「えっと、407だから四階か。」

④のボタンを押した後、しばらくして動き出したエレベーター。ゆっくりと上に向かう。

「・・・。」

またあの時間が始まるのか。
ケータイを開いて、時間を確認する。

「・・・。」

今日最後の客だし、適当に相手して早く帰ろう。

この仕事を始めて一年、減るもんじゃないから、そう思っていたけど、心はだいぶすり減っていた。

「・・・。」

気持ちとは反対に、エレベーターは上へ上へと私を運んでいく。

すると、三階で動きを止めた。誰かが乗ってくるようだ。私は隅っこの方に身を縮め、うつむいていた。

「がっはっは!お前何言ってんだよ!わしが三十代の頃はあんなもんやなかったで!」

「ほんまでっか!?今日も結構ハッスルしてたみたいやないですか!」

「明日仕事終わったら、もっといい女がいるとこ連れてったるわ!」

「いやー、出張はいいっすね!嫁にも知られず、気軽に遊べる。」

「せやろ。俺もなぁ、近場じゃ遊べんからストレスたまってしゃーないんやわ!」

うるさいオヤジたちだ。お酒臭いし、髪薄いし。私はなるべく目立たないように、隅っこで下を向いていた。

「・・・。」

今日三人目の客。
暴力的な男でないことや複数人いないこと、無理やりヤラレないことなどマイナスのことばかりを気にかけていた。こんな時世だということもあるが、それ以上に過去のトラウマの影響が大きかった。

エレベーターを降りると、目の前には赤い絨毯が敷いてあり、407号室は左に曲がったすぐのところにあった。私は周囲を気にしながら(今さら気にする必要も全くないのだが)、二回トントンとノックした。
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