優しい気持ち
今日会ったばかりの人に、こんなにも安心感を持っている自分。一緒に過ごす時間が長くなればなる程、仕事とそうでない部分の境界線があやふやになっていく。

そんな自分と今まで貫いてきた自分とが頭の中で葛藤していた。

《所詮、男はそういう生き物》

《こんな仕事はほんとはやりたくない》

《あの日に受けた性的暴行》

《消し去りたい過去の日》

《男は信じれない》

《怖い、男の本性が》

色んな心の叫びが頭の中に出てくる。優しくされるとその言葉たちが駆け巡る。

仮にそれを信用できたとしても怖かった・・・。
また男の本性を見てしまうのが・・・。

私はとっさに話題を変えた。

「あっ、わかった!」

「ん?何が?」

「今、彼女いる?」

「おらんで。今は。俺そんなモテんしな。


「えっ?そう?そんな風には見えないけどなぁ。」

自分の過去を詮索されるような話題ではなく、その人の話題に変えた。

《私の心にはこれ以上近づかないで》

そう祈りながら、出会って間もない頃のように、精一杯気丈に振る舞った。

「ほんとにいないの?」

「まぁ、人は見かけによらん、って言うし。」

「あ、結構あれでしょう?彼女の化粧とか変わったの、気付かないタイプでしょう?」

「うるせー・・・。」

「やっぱり!」

「あー、俺結構、女のこと気付かんからね・・・。」

「じゃあ、女の子が気があってもわからないんだ?」

「む・・・。」

「じゃあ、後から『なんで気付いてくれないの!』って言われちゃうタイプだね!」

「バレタかーっ!!」

「そっかそっか。へへっ、当たりだ!」

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