優しい気持ち
「俺はね、一つのことに集中してる時はそれに集中してたいタイプなの!」

「何それ?」

「だから、仕事中は仕事に没頭していたいし、バスケやってる時はプレイに集中したいんだ。」

「好きな人は?」

「そりゃ、好きな人と一緒にいる時は、その時間を大切にするで。」

「・・・。そうなんだ。」

「やけん、付き合いだしても、『なんで見てくれないの?』って言われることがよくあるんよね。」

「そっか。じゃあ、今までどんな人と付き合ってきたの?」

恋愛話なんていつ以来だろう。

キョリをとるために転換した話題でさえ、純粋に楽しかった。私自身が遠い記憶をたどってその頃よく感じたことを話したのも、初めてのことだった。

私の上で馬乗りになるその人を見つめて、どれくらいだろう、五秒ぐらい見つ合った。

「りょうちゃんに似てる。」

「ん?」

「やっぱり似てる。」

「誰、りょうちゃんって?あ、友達!?」

「違うよ。」

「りょうちゃんって言われても誰かわからん。」

「スラムダンクのりょうちゃんだよ。」

「スラムダンクの・・・?あっ、宮城か。」

私はずっと気になっていたことを伝えた。ほんとにスラムダンクの宮城リョータにそっくり。私の好きなキャラクターの。

これまでの私なら馬乗りになられたら防御態勢に入ってしまっていたのだが、この時はくすくすと笑っていた。

私もその人も裸なのに、男と女なのに、そういう目的で私を呼んでるんだし何が起こっても不思議じゃないのに。

でもその時はそれが普通だった。

「小さい唇。」

右の人差し指で私のそれに触れる。
私はその小さい唇を精一杯広げて微笑んで見せた。

すると突然、その人は私に覆いかぶさってきた。

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