優しい気持ち
その日以降、彼とは少し距離を置くようにした。そんな私に気付いてか、彼の方も私を避けている様子だった。

それから季節が秋、そして冬と色を変え、受験シーズンに入った。朝の食卓のニュースでも東京の早稲田、慶応、青学等さまざまな大学の合格発表が連日のように流れていた。

「友子、あんた来年受験だからしっかり勉強してよね。」

「うん。」

まだ一年も先の話だ。そう内心思いながらも母の言葉に返事を返す。あまり勉強は好きじゃないけど、こんな私でも何とかなるだろう、それぐらいの受験意識でテレビを見ていた。

そして私立大学の受験が終わり、今度は国公立大の受験に突入する。

進学校である私の高校では、各人が受験のため各地に飛んでいくため、この時期三年生は自宅学習となっていた。

《そう言えば彼はどこを受験したのだろう。》

以前尋ねた時は、医学の方面に進みたい、そう言っていた。

「井上さーん、井上友子さーん!聞いてますか?」

「・・・。」

「今は漢文の授業中です。数Ⅱの教科書はしまってくださいね。」

「あっ・・・。」

私は、彼ならきっと受かる、そう信じながら日々の高校生活をおくっていた。

そして三月に入り、三年生は卒業式を迎える。私は最後に彼にこれからのお互いの健闘を祈りたい一心で、いつものバス停で彼が来るまで待つことにした。

三月と言えど盛岡では真冬で、卒業式の日は風も冷たかった。都会の電車やバスの感覚とは異なり、地方では一本乗り過ごすと次は一時間待ちなんてザラだ。また一台、私の前をバスが通り過ぎていく。

《まだ来ない。》

かじかんだ手を制服の袖にうずめ、息で温める。背中の方まで冷え切っていたが、最後に会いたいと思う気持ちの方が強かった。

《また一台行ってしまった。》

それからどれくらいの時間が経っただろう。私の目の前に彼が立っていた。

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