優しい気持ち
最終章 人の優しさに触れた時
それ以来、私は男というものを信じなくなった。

引き裂かれた制服を見て、親が問い詰める。

≪何をされたのか、誰がやったのか。≫

そんなこと言いたいわけがない。思い出したいわけがない。それなのに、ものすごい口調で問い詰められた。

≪警察沙汰だ!学校は何をしているんだ!≫

そんな父の声が向こうの部屋から聞こえる。母と姉は私を包み込むように抱いてくれた。

≪大丈夫だからね、友子。≫

何度も何度もそう言って、慰めてくれた。

私はその事件から数週間学校を休み、病院で精神治療を受けた。学校側と両親のやり取りがどうなっているのかは、知らない。

ただ、大丈夫だから、心配しなくていいから、それだけ何度も繰り返し言われた。

だが、ある日をきっかけにそれは変わった。
それは私が事件以降、初めて登校した日のことだった。

久しぶりに来た学校。いつものように上靴に履き替え、教室へ向かう。新しい年度に変わり、三年生になっていた私。初めて会う担任、知らないクラスメイトも何人かいる。

私は何事も無かったかのように、席に着いた。周囲の反応は様々だった。全く気にしてない人、以前のように優しく接してくれる友人たち、遠くから私を見ている集団。

「何で休んでたの?」

色んな人から聞かれるこの質問。

「ちょっと体調が悪くて。」

そう言って、何とか気丈に振る舞った。

≪別に私は何も悪いことなんかしていない。≫

その気持ちだけしっかり持っていた。

当たり前のようにホームルームが始まり、当たり前のように授業が行われる。そして当たり前のように下校のチャイムが鳴る。

何も変わっていない、いつものリズム。

私は、新しいクラスで馴染んでいけば大丈夫だ、そう考えていた。そして靴を履き替え、家に帰ろうとしていると、担任の先生が私を呼び止めた。

< 33 / 38 >

この作品をシェア

pagetop