優しい気持ち
その人は机の上に置いてある黒い革の財布からお金を取り出した。一万円、二万円・・・。

「えっ!?オプション・・・ですか?」

「ん?いや、お釣りある?」

「・・・。」
なんだ。お釣りか。

てっきり口内発射とかオナニーとかのオプションかと一瞬ドキッとした。私にとってオプションは苦痛以外の何物でもなかった。

「お釣り持ち合わせてないんです。すいません。」

「え?無いの?そら困ったな。」

「・・・。」

「どうしよっか・・・。」

「このホテルって両替とかできないの?」

「できると思うよ。ちっとフロント行ってくるわ!」

「あ、私も行った方がいい?」

「ん?」

「行かない方がいいかな?」

「来てもいいけど・・・。でも両替するだけやで。よかよ、ここでいい子にしとき!」

「・・・。」

何で私が一緒に行くんだよ!と自分で自分にツッコミ入れたくなるほど何を言っているのかわからなかった。私がフロントへ行ったところでその人に迷惑がかかるだけじゃないか。その人がデリヘル嬢呼んだ、ってバレちゃうだけじゃないか。

それなのに何であんなこと言ったのだろう。自分でもその時からその人の不思議な空気というか雰囲気にのみ込まれているのを感じた。

「あっ、テレビ好きなとこに変えていいよ!ニュース見たって、政治家の言うことなんて信用できんし。」

「・・・うん。ありがとう。」

「じゃあ、行ってくるね!」

「・・・。」

部屋に流れる深夜のニュース番組。
ボーっとそれを眺める。テレビを見ることなんて、全くと言っていい程ない。政治家の発言なんて、私には何の影響もない。そこら辺にいる普通の年配のおじさん。
そんな人たちが起こす、『不倫』問題。全くもって、そこら辺のおじさんと変わらない。

嫌な気分になる前に、私はパチパチとチャンネルを変えた。

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