止まった時の住人
着信音で目を覚ました健は、不機嫌そうに携帯電話に手をのばした。携帯電話のサブ画面には、『公衆電話』と表示されている。


「ん？公衆電話から掛けてくる奴なんかおったっけ…」


少し不思議に思いながら携帯電話の通話ボタンを押した。


ピッ


「もしもし？誰ですか？」


「…もしもし」


健の声から少し間をおいて、ドスの効いた低い声が返ってきた。大通りにある電話ボックスから掛けているのだろうか、車の通る音が受話器を通してよく聞こえる。


「もしもし？どちら様でしょうか？」


もう１度丁寧に聞き返した。……が、返事は返ってこない。


「もしもし！」


今度は少し大きな声で聞き返した。すると、反応があった。


「じ…おとめ……だ」


返事というより単なる声、いや、男の口から発せられた音に近い。電話ボックスが開いているのか、車の音などの騒音が入ってきて何を言っているのかわからない。
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