止まった時の住人
健はそう言うのが精一杯だった。


「健君、安心して……」


とその時、雪江の目の前で地面が崩れた。落とし穴だ。


「なんや?!」


伸也は、落とし穴に落ちた。


雪江はすぐにカウンターをひっくり返し、落とし穴の上まで引きずって、穴にフタをした。


「雪江さん?!一体何したんですか?」


「……フフフ。時間より早く動くと言っても、所詮は地面の上を走って来ているんでしょう?だったら、穴を作ったら落ちると思ったの。普通、相手に向かって真っ直ぐ走るでしょう?だから私の前に、バレないようにこっそりと」


「すごいですね、一瞬で落とし穴を作るなんて……」


「フフフ。ここの床、ひどく脆いことに気がついてね。一枚板を剥がしたら、ポッカリと穴があいてた。成功したわね」


「いや、失敗してるよ……」


雪江は背後からの声に、心臓がドクンとした。そこには、伸也が立っていた。


「どうして?!」
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