たった一言が言えなくて
ああ、何であんな可愛く生まれてこなかったんだろう。
「あっ、じゃあ私はこれで」
「おう、サンキューな」
それと同時に入れ違いになるように美野さんが反対方向に駆けていく。
何てスマート。佳斗は教室に戻ろうとしたところで私に気付いた。私は直ぐに俯く。
顔を見られたくない。
「穂南?」
佳斗のいつもと同じ声に涙腺が緩む。ヤバい。
「ごめん、私今日用事あったんだ先に帰るね!」
「いやっ、なら一緒に帰るだけでもって穂南!?」
教室に入るなり自分の席に掛けてある鞄を引ったくる。
その瞬間、佳斗が私の腕を掴んだ。
何だよ、何なの!
「おいっ、どうしたんだよいきなり」
「ごめん、私今いつも通りで居られないから」
「はっ? 何言って」
「だからアンタと帰りたく無いんですって!」
「何だよ、それッ……穂な、み?」