天使への判決
「おう!堅二!来よったな!」
隣の部屋から出て来たのはシュウイチさんとリュウジさん。
そしてその間に囲まれるように出て来たのが…
この100人からなる江藤会を取り仕切る組長、
『江藤喜与郎(エトウ キヨロウ)』だ。
歳は既に80を越えており、そろそろ引退してシュウイチさんが三代目になるだろうと組の中でも密かに囁かれているが、その眼光は未だ衰えていない。
組長が部屋から出て来た途端、騒がしかったホールは一気に緊張感に包まれる。
それと同時に黒装束の集団は素早く半分に分かれ、組長の通る道が開かれていく。
俺は頭を下げたまま組長とシュウイチさん、そしてリュウジさんが通り過ぎるのを待った。
ナオキが行方不明だということはさておき、朝戸が殺された事実は組長の耳に届いていないはずはない。
固唾をのみながら組長の裾元をじっと見守っていると、俺の目の前でその袴の裾がピタリと止まった。
「木山堅二…だったな」
組長が突然俺に声をかけた。
俺は驚いて顔を上げる。
組の事をシュウイチさんに殆ど任せている組長は、組の人間の名前と顔を覚えない事で有名だった。
この歳だ。
無理もない。
最近ナオキやヨウスケをはじめとする若い衆が多く入って来た事も理由だと思う。
そんな組長が俺の名前をフルネームで覚えていた。