天使への判決
「専務、新しいピュアリスのCMは順調ですか?」
癖なのか…
専務はさっきから、グラスからはみ出したブランデーの氷を仕切に指で触っている。
「いや…それがだな…」
「はい」
「ピュアリスの会長が、今回は博通社との競合コンペにするって言って聞かないんだよ」
グラスの氷が音を立ててブランデーの中に落ちた。
「えー!!
指名じゃないんですか!?」
隣でユウコが叫んだ。
「ああ、今まであれだけ融通を利かせてピュアリスのためにやってきたのに、些細なトラブルで手の平を返したように、これだよ」
専務は眉間に皺を寄せて険しい顔をした。
「些細なトラブルって…?」
私がそう聞くと、専務はハッと我に帰ったような表情をして言った。
「いや、悪い。聞き流してくれ…
中年男の単なる愚痴だ」
ピュアリスから来春発表されるリップは、長い間専務がピュアリスに出向を重ね、一緒に商品開発を進めて来た新作だ。
理由がどうであれ、競合になってしまうのは納得がいかないだろう。
「でも、専務じゃないとあの商品のブランド化は出来ないと思います」
私は本心からそう思っていた。
商品の事も然別、ピュアリスの事を知り尽くしている専務に、博通社が勝てるはずがない。