天使への判決
「……準備は終わった?」
会議室のドアがガチャリと開くのとほぼ同時に、か細い女の声が聞こえ、
黒髪を一つ結びで後ろに束ねた高山が入ってきた。
ユウコが驚いた表情で高山に目をやる。
まさかこんなに早い時間に出社するとは思ってもみなかった。
「この部屋、暑いわね…
うん、暑いわ」
高山は独り言のように呟きながらエアコンのリモコンに手を伸ばす。
さっきの会話を聞かれてしまったかもしれないと思い、彼女の目をチラッと見たが、喜怒哀楽をほとんど表情に出す事のない高山からは何も感じ取る事ができなかった。
「お早うございます…高山さん」
私とユウコは軽く会釈をした。
「ああ、おはよ」
私は壁にかかる時計に目をやった。
「まだ8時ですよ。早いですね」
「あら、知らなかった?私は会議の時はいつも一番に来てるのよ。
それに今回は責任重大だし、嫌でもプレッシャーがかかってるの」
高山は黒フチの眼鏡を指先で軽くかけ直し、精一杯できる女を演出する。