天使への判決
「んで?身体はもう大丈夫なのか?」
「うん、何ともないけどね、気絶してる時間が長かったから、帰ってから一応検査するように言われてね、明日でもミキ姉ちゃんの所に行く」
「そっか、そんなに大変だったなら、電話かメールくらいしてくれよ」
ケンジはテーブルの上に置いていた箱から、ショートホープを一本抜き取ると、唇にくわえた。
「うん、ごめんね
でもケンジも忙しいだろうし、変に心配かけても悪いから」
私がそう言うと、ケンジは少し淋しそうな表情をした。
「なあ、俺はリサにとって、何なんだ?」
「えっ?どうしたの?急に…」
私は驚き、ケンジを見つめた。
ケンジは私の知らないところで、さんざん女と遊び散らし、私のする事にも干渉しない。
それが私の中でのケンジ……
同棲しながらも、お互いに『恋人』と呼ぶのを避けるように、微妙な距離を保っている。
私は言葉に詰まったまま、ケンジの手元に目をやった。
くわえたタバコに火を点けようとはせず、ジッポの蓋を開けたり閉めたりを繰り返している。
あのファイルを見てからというもの、ケンジの仕草や行動を何気に観察してて、気が付いた事がいくつかある。
ジッポの蓋を開け閉めするのは、イラついている証拠だ。