天使への判決



二人で顔を見合わせ、聞き耳を立てようと一度顔を上げて、高山の口元を凝視した。

化粧が全くされていない口元、乾燥してうっすらと皮が剥けかけているのが分る。

後ろでひとつに束ねた黒髪に黒フチの眼鏡。黒いスーツを身に纏ったその様相は、自ら結婚や恋愛という言葉を遠ざけようとしているかとも思われる。


高山は持っていた会議資料を手際良く配布すると、プロジェクターでコンペで提出するポスターのデザインや、写真などを次々とスライドさせていく。

そして、商品のイメージ付けの重要点でもある、キャッチコピーの案を説明しはじめた。

『春の新色・ハルイチモンメ』

『私らしい春色』

『サクラんぼの風』


−ありきたりなコピー−


相変わらず彼女の説明は、まるでお経を唱えているかのようにブツブツと続いている。

真面目さが取り柄の高山。人の興味を惹く事など無関心とでも自称するかのように、自分の説明に陶酔しているようだった。




「もういい!!」

それまで黙って彼女の説明に耳を傾けていた専務が急に怒鳴り声をあげた。

皆は何が起こったのか分らないと言った具合に、顔を上げていた。
会議室の空気が一気に凍り付く。

「高山!お前はいったい、誰にプレゼンしているんだ!

人を説得させる事に全力で取り組めない奴に、この大事な仕事を任せる事はできない!」







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