天使への判決
「あははは」
ルームミラー越しの入江君は、細い目をさらに細くして笑った。
「そんなに笑わなくていいじゃん」
まあ、笑ってしまうのも無理は無いけどね…
私だって好きでこんな格好をしている訳ではない。
いくらモチーフの実物を見てもらうためとはいえ、スーツで身を固めた大勢の人の前で、ひとり純白のワンピースで登場する場面を想像すると、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「ピュアリスの社長も会長も所詮男なんですよ。
松山さんの色気で悩殺KOは間違いないでしょ」
悩殺KO……
「妖精のイメージって、本当にこんなのなのかなあ…」
私は独り言のように呟いて、スモークを貼った車の窓を眺めた。
チークをいつもより濃いめに施した自分の顔が映る。
「誰が妖精って言った?」
専務が顔を上げた。
「起きてたんですか?」
「ああ…
何度も言うようだけど、妖精じゃなくて精霊だよ」
そういえばそんな事を言っていたような…
「妖精と精霊ってそんなに変わらないんじゃないですか?」
私が首を傾げながら聞くと、専務はやれやれといった具合にため息をついて言った。
「妖精っていうとフェアリーだろ?
日本でフェアリーっていうと無邪気でいたずら好きなイメージじゃないか。
あれはモチーフとしては子供だよ、子供」
「はあ…」
「でも精霊は違う。世界各地の神話や伝承に登場するのは泉の精とかランプの精とか…
要するにスピリットであって形の無いものを表現したかったんだ」
言っている意味はよくわからないが、専務の思い入れが何となく伝わってくる。