天使への判決
「シュウイチさんは鳴水に金を渡すことで俺の事を助けた。
その時思ったよ。『ああ、この国では金を持っているヤツが一番偉いんだ』ってな…
実際、シュウイチさんには感謝してもしきれない。俺が業界に入った切っ掛けもシュウイチさんだし、シュウイチさんに助けてもらえなかったら今の俺の命は無かったかもしれない。」
信号に引っかかったタイミングを見計らうと、俺は両手を添えて堅二さんのタバコに火を点けた。
「江藤組長はもういい歳だ。そろそろ代は引き継がれるだろう。」
「そうなんですか…?」
「ああ、ただし…」
堅二さんはそう言ってタバコの煙を大きく肺に取り入れた。
「シュウイチさんが代紋を継ぐと、組の内部はさらにゴタゴタが増えるだろうよ。
実際、シュウイチさんは下のモンに厳しすぎる。
シュウイチさんの事で俺に相談に来る人間も後を絶たないんだ。」
俺は言葉を選びながら堅二さんに聞いてみた。
「シュウイチさんが三代目になったら…江藤会は…どうなるんですか?」
「俺はな、シュウイチさんの『金が全て』といった方針に疑問を抱くようになった。
俺だけじゃない。リュウジの兄貴もきっと同じ考えだ。」
「…」
「シュウイチさんの代が来ると、恐らく組が幾つかに分裂するだろう。」