その男、草食系につき。
桜木氏が参加しないということで、その日程は変更になるかと思われた。
けれど翌日になって桜木氏が参加表明をしたため、そのままで行われることになった。

桜木氏が参加しないのならと参加を止めた女性たちは、『用事』があると言ってしまった手前参加するとも言えず指を加えていたようで、なんだか笑いたくなってしまった。

そんなわけで飲み会当日である。

桜木氏の両隣はすでにがっちりとガードされていて、どうにも会話できる状態ではなかった。今日は話したりできそうにないなと諦めていたら、化粧室の帰りにばったり遭遇した…ので声をかけてみた。

「あ、桜木氏。今日も中々大変そうね。」


「百合子先輩…。皆さん大分アルコール入ってきちゃったみたいで…。」

彼は困り顔で笑い返してくる。

「それだけじゃないでしょ?そういえばこの前用事があるって言ってたけど今日は本当に良かったの?」


「ああ!はい。妹の誕生日を家族みんなで祝うつもりだったんですけど、自分は週末とかでいいからって言われてしまって。」


「そうだったんだ…。」

桜木氏が妹さんを可愛がっているのは知っていたけれど、まさかそんなに可愛がっていたとは…そう考えていたときに彼が続けた。

「うちは家族の誕生日は家族みんなで過ごすんです。だからなのかちょっと寂しいですね。」

ちょっと待て。

今、家族みんなと言わなかっただろうか。

うん、言った。

間違いない。

桜木氏はクリスチャンかなんかなんだろうか。

今どきない。

断じてない。

妹だけならまだしも、家族の誕生日を家族みんなで祝うなんてない。

大体『会社』より家族を優先する人自体まずいない。

そうか、彼は天然記念物だったのか。

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