フラッシュバック
 一方、大神たちは、雲井兄妹を問い詰めようと病院へ行くが、二人は死んだ後で、二人は霊安室に移されていた。雲井逹八が死んだ以上、雲井を理屈で説得して『フラッシュバック』を閉鎖することはできなくなる。
 大神は対抗策を思いつく。逹八のつくった『フラッシュバック』は、見た人間の最悪の絶望を再現する、ならば、当の雲井逹八と友香に『フラッシュバック』を見せれば、それぞれが過去の最悪の絶望を再体験し、二人にダメージを与えられるのではなかろうか!?
 大神は、霊安室に行き、雲井逹八と友香の死体を引き出し、死体のまぶたを切除し、霊安室の天井に『フラッシュバック』をプロジェクターで投射する。作った当人たちにこのサイトを見せるのだ。『フラッシュバック』に対して、友香の死体が反応する。友香の最大の絶望は、飛び降り自殺を試みた際の、飛び降りてから地面に激突する間の何秒間か、の体験だった。これを果てしなく繰り返してしまい、友香のパーソナリティは破綻し、友香のサイバー上の意識体は消滅し、老化していた死体も消滅する。
 しかし、逹八の死体は動き出し、手で、自分の眼球を両方えぐり出した。これでは『フラッシュバック』を見せられない。しかし、そこへ、消滅しためぐみからメールが入る。メールには、あるサイトのアドレスが示されていた。大神は、そのサイトを見て、めぐみの意図を察する。
 そのサイトは、あるサッカーファンのOLのブログで、そのOLも『フラッシュバック』を見たため、毎夜毎夜、夢で『ドーハの悲劇』を繰り返していた。しかし、そのサイトで、OLは次のように語っていたのだ。大神はパソコンの音声合成装置でその記述を朗読させ、雲井逹八の死体に聞かせる。
 「私は、『ドーハの悲劇』を見て、あの時はすっかり絶望した。でも、日本のサッカー選手たちは、4年間、艱難辛苦を重ね、ついに『ジョホールバルの歓喜』をつかみ取り、フランスワールドカップ本大会に進出したではないか。絶望があるからこそ、その中に希望があるんだ!」
 雲井は、ほだされて改心し、『フラッシュバック』のサイトも削除してしまう。逹八の死体も粉々になり、消えてしまった。
 『フラッシュバック』のサイトは消滅し、『フラッシュバック』を見たために毎夜毎夜、悲惨な記憶を再体験していた何万という人間は、やっと安眠できるようになった…………。
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