時の間
『いいですかぁ?? 開けますよ??』


僕は、ドアに手をかける。



(帰ってこれるんだろうか・・・)


不安になりふっと後ろを振り返ってみた。



いろいろな人がジッとこちらを見ている。



さっきまで言い争っていた人達も。



(「早く行けっ!」とでも言いたげな感じだな。)



そんなことを思っていると、
突然足元で声がする。





『ねぇねぇ。
お兄ちゃんたち、
あっちに行くのぉ?? 
なんでぇ??』




7~8歳ぐらいだろうか。
片手に携帯ゲーム機を持った
男の子が話しかけてきた。




『危ないんでしょ?? 
ママがね、
さっき僕がそこ開けようとしたら
「危ないから行っちゃダメ!!」
って言われたよ。
行っても大丈夫なのぉ??』



・・・人だかりの中、
一人(ビクッ)っとなった人がいたのを
僕は見逃さなかった。




(あれが、母親か・・・)




自分の子は止めても、
僕たちには一言もない。
ただ見ているだけだ。





他人にはそんなもんなんだろう。





『あのねぇ。
危ないかどうかわかんないから、
ちょっとここで待っててくれるぅ?? 
お姉ちゃん達が見てくるから。』



怜香だ。



僕があれやこれや詮索しているうちに、
足元でしゃがみながら怜香が応対していた。




『だからね、もう少しここでいい子に・・・』




ドタドタ


ダダッダダ




(ん? 足音??)




僕がふっと顔を上げた時には、
この子の母親であろう人が血相を変えて
走って来ていた。



『勝手にウロウロしない!!
早くこっちに来なさい!!』



『あっ・・・』



怜香には目もくれずその子の手を
強引に引っ張って連れていく。




『・・・涼くん。行こっか。』


『・・・う、うん。』



振り返った怜香の笑顔には、
どこか悲しさが潜んでいた。



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