見えない罪と、月
セリルは拒む。セイル達を犠牲にしてまで自分だけ助かる事なんてしたくはないと。

だがセイルの意思は堅い。何も言う事をせず、ただセリルに微笑んで外へと。

喋る時間も惜しいと言う事なのかもしれない。

分かっていた。セイルはそう言う人間だと言う事を。

どちらかしか助からないとしたら、自分を犠牲にしてしまうような男なのだ。

ずっと一緒にいたのだからそれくらいは分かる。


「…………畜生っ!」


セリルはただただ悔しさから俯いたままであった。





一方のセイルは10分ほど進んだ森の中腹で、

ルシェがそこにいたと言う証拠になる物を見つける。

彼女が持っていた木の実が散乱しているカゴ。そして自身が彼女に渡した指輪。

ルシェは指輪を外した姿をあの日から見た記憶はない。

かと言って彼女の指より太い指輪でもなく落ちる要素はない。
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