見えない罪と、月
だが肩の怪我で思うように前へ進む事が出来ないセイル。

途中で力尽きてしまい、とある場所で立ち止まり膝を地に着ける。

もう自分は此処までだ。そう言った覚悟もあったのかもしれない。


(ルシェ、見付ける事が出来なくてごめん。セリル、戻れなくてごめん。どうか逃げて)


セイルが目を閉じたその時、気配だけしかなかったイレイスの言葉が聞こえた。

それはセイルが初めて聞くイレイスの声。


「俺らが止めを刺さなくても、どうせその出血じゃすぐに死ぬ。
じわじわその恐怖にあがけば良い」


狂ったような笑い声と共にそれだけを吐き捨て、その場を去っていく。

セイルは遠ざかるその音だけでそれを判断した。


(ああ、僕とした事が。本当に不覚だった。これくらいなら絶対に避けれたのに)


セイルの意識はそこで途切れた。

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