お姫様と靴磨きの男



今まで私は気づかなかった。

いや、気づこうとも
しなかったのかもしれぬ。


私の城の中にいる人間は
皆、父上に好かれようと
躍起になっているし、

時々地下の牢屋に
入れられる人間は
皆、醜い心を持っていた。

だから私は思って
いたのだ。

人間ほど欲の深い
生き物はいないと。


なのに、身分は下で
大した仕事もなく
お金も少ない人達の方が
そいつらよりずっと
純粋で真っ直ぐなのだ。

…ただ、こんな
奇麗な心を持った人達が
不自由な暮らしを
しなければいけないことが


今、とても悲しく思えるのだ。
< 32 / 50 >

この作品をシェア

pagetop