失業旅行
歯車卒業
私は、工場の勤務に憑かれ疲れ果てた。
デスクワークから現場へ左遷された。
叱責、怒号、騒音。私の精神に破綻を来すには十分だった。
私は、気がついたら冬の凍てついた川に足を浸して呆然と立っていた。熱い冷たいなんて感覚は、なかった。
杭のように立ち尽くしていた。
通報があったようで、病院に運ばれた。
会社からは、一枚の紙切れ。失職と伝えられた。
向精神薬をぶちこまれて朦朧とする頭だが、職安にふらふらと行き失業の手続き。


幾ばくかの貯金。
私は、十年物の綻びたリュックサックに下着数枚と手拭い、そして万葉集の文庫本をいれると駅に向かった。
鈍行の切符を買ってどこか行こうと思った。
だが、法外な値段。
私は、バスの受付に行った。
東京行きのチケットを買った。
私は、出発時間までぼんやりと駅のベンチにいた。
リュックサックを枕に横になる。

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