治樹と未来

【俺さ、好きな女ができた】

治樹のその一言で、私の中の何かが崩れていった。

【俺、前の女が死んでから本気で人を愛することができなかった。
寂しさを感じた時は適当に女を抱いてきた。
だけど、今のその女は俺を本気にさせたんだ】

【もうそれ以上言わないで】

私はそう言って今にも溢れ出しそうな涙をこらえ、

治樹に背を向けた。

【その女を一生守っていきたい。
一生そばにいたい】

【もう聞きたくない！】

そう言って私は、歩き出した。

私は治樹にとって都合のいい女だった。

寂しさを埋める、ただそれだけの女だった。

でも、それは私が選んだ事。

治樹を責める事なんてできない。

さようなら、治樹・・　

【未来！】

治樹に呼び止められた。

振り返ることができない。

【俺が風邪で寝込んでた時、
その女は俺におかゆを作ってくれた。
俺の熱が下がるまでずっとそばにいてくれた。
それが今、俺が本気で愛する女】

その瞬間、こらえてた涙が一気に溢れ出した。

治樹は八重歯を見せながら笑顔で私に近づいてきた。

【好きだよ】

そう言って私を抱きしめようとする治樹に、

【夢じゃないよね？】

私は不安げな顔で見つめる私のほっぺを

治樹はギュッとひねった。

【痛いっ！】

【夢じゃないよ】

そう言って、治樹は私を優しく抱きしめた。

この日が私と治樹、二人が恋人になった大切な記念日になった。