星の涙
男達の気が千夏に集中しているうちに逃げたほうがいいかもしれない。

そう巧は思った。

この世界は平和というには程遠い。

このままでは殺される可能性も十分ある。

巧は男達にバレないように、そっと茂みのほうへ歩きだした。

どうやったら自分の世界に戻れるのかわからないが、とりあえずここから離れなければならない。

しかし千夏の知り合いと思われる男はそれを許さなかった。

「よぉ、坊主」

その声に巧の体は大きく上下した。

一瞬にして嫌な汗が噴出す。

巧に背を向けたまま声をかけると、男はゆっくりと立ち上がり、巧に近づいてきた。

険しい顔をしてこちらにガンを飛ばしているようにも見える。

その姿に多少の威圧感を覚えたが、巧はひるむことなく男を待ち構えた。

「千夏を助けてもらったことには礼を言う。少なくとも鬼畜ではないってことだ。しかしお前の服装は気に入らねぇ。なんだその布切れは」

巧の袖を上にひっぱり奇妙な顔でそれを眺める。

やはり服装に問題があったようだ。

元は真っ白だった、前に大きなプリントつきの半そでTシャツ。

今は土と灰で汚れ真っ黒だ。

これはもう漂白しても落ちないだろう。

お気に入りだったTシャツの変わり果てた姿をもう一度見て、巧はため息をついた。

しばらく巧の全身をじろじろ見つめると、男はため息をつき、巧にこう言った。

「お前が千夏の言っていた未来の人間ってやつか……」

突然男の顔がぼやけた。
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