星の涙
虫の音が聞こえる。

命の灯火が続く限り懸命に求愛をする虫は実に健気である。

自分の子孫を残すために、少しでも多く鳴く。

人間にはない行動だ。

「ん……」

巧はその綺麗な音で目が覚めた。

外は既に真っ暗。

日中晴れていた空は星の模様に変わり、月も綺麗に輝いている。

「あ、起きたね。おはよう」

その綺麗な夜空を覆い被せたのはあの夢の少女。

まだ夢を見ているのだろうかと、巧はもう一度目をつぶった。

夢なら現実に戻るまで寝ておきたい。

自分の真上に顔を覗かせる少女は幻だ。

そう巧は思いたかった。

しかし少女はそれを遮るように巧の体を揺さぶる。

「ちょっと寝ないでよー。ねーってばぁ……」

これは夢だ。

夢なんだ。

巧は自分に言い聞かせた。

決して目を開けないよう力を入れつぶり続ける。
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