マリオネット・ワールド <短>
天才の憂鬱
――佐伯 歩
佐伯 歩(サエキアユム)。
理工学部3年。
遺伝子の組み替え。
無作為に生まれ来る生命の選別。
DNA操作で、完全無欠のロボット人間の生産。
俺は、時代の最先端に手を伸ばしている。
草花や動物だけじゃない。
聖域であったはずの人間でさえ、完全に操れるようになる日は、
もう目の前まで来ていることに、俺はいち早く気付く位置にいた。
神だけが知るのみだったはずのことを、人間が操ることができてしまうのだ。
初めから、この道に進もうと決めていたわけではない。
かつては、医者になろうと思っていた。
命が尊いからではない。
世間から、神だと崇拝されたいがためでもない。
その理由は、驚くほど単純かつ明快だ。
知能レベルが世間の最高位だと、無条件に知らしめることのできる優越感。
それから、金に少しばかりの興味があったからに過ぎない。
だけど、止めた。
他人の命を背負わされるという、無駄なリスクを背負い、朝も夜も追い立てまわされ、自分の命を削られるくらいなら、
もっと簡単に稼ぐ方法もあるということを、俺は見つけたから。
そして、予定通り。
何の問題もなく、俺はそれなりの勉強で、それなりの場所に進んだ。
毎日がイキイキと輝いたり、自分に満足しているわけではないが、何もかも思惑通り。
つまらない。
だけど楽だ。
まさに、順風満帆。
とまぁ、ここまで満ち足りた言葉を使っていいのかはわからないが、俺は俺の生き方に不満はない。