マリオネット・ワールド <短>
片親だからといって、世間に見下されたくない、見栄張りな母のおかげで、
私は、私立の有名女子校へ、まるで育ちのいいお嬢様のように、通い続けることができた。
世間体ばかりを気にする母を疎ましく、面倒臭いと思うこともあるが、
私がそれに従っていれば、何も波風は起きないわけだから、最近では気にすることはないのだと気付いた。
こうして私は、生きるということに、明白な目的を見出せないまま、ここまで歩いてきてしまった。
誰かの敷いたレールの上を、コントロールされた速度で歩き続けることは、とても楽だった。
それでも、何か確固とした拠り所を求めた私は、大学で哲学を専攻し、思想の世界に逃げた。
万人を平等と、バカげた愛を掲げるキリスト教に興味はない。
虫や草花みたいに、心を持たないものを愛せと、気の狂ったことを謳う仏教にも興味はない。
私が強く心を惹き付けられた気高き偉人は、ただ一人。
どこぞやの時代に生きたとされる、Nietzscheとかいう名前の人物。
キリスト教を弱者の集まりだと蔑み、
キリスト教の“愛”を、弱者の遠吠えだと貶した。
そして、古くから信じられてきた神を「死んだ」と、おごり高ぶった言葉を堂々と吐いてのけた男。
初めてそれを知った時、私の芯が心底震えたのを、私はきっと生涯忘れることはないと思う。
結局、何百年、何千年も昔から、人間は何も変わっていないのだ。
この世は、少数の強い者で成り立ち、その一部に抑え付けられた弱者は、上を見上げては妬み、嘆く。