マリオネット・ワールド <短>
対峙
死んだ瞳を持つ二人は、肩を並べ、扉の向こうへと足を踏み出す。
先に平行線の向こうへと手を差し伸べたのは、女の方だった。
「私、文学部2年の鳴海悠」
「ふーん」
「アナタは?」
「聞いてどうするんだ?」
男は、片側の口角だけを吊り上げた薄笑いで、少し低い位置にある鳴海悠を見た。
男の浮かべた笑みが、小バカにしたように見えたのは、上から見下げたせいだけではないということは、
その視線を送られた本人自身が、一番よく理解していた。
それでも、鳴海悠の心に“不快感”という汚濁が生み出されることはない。
むしろ、共感めいたものを感じ、歓喜の音が胸にうごめいていた。
そして、その笑みに共鳴するかのように、鳴海悠も同じ顔を見せ、フレームの中に視線を送る。
「まぁ、いいか。俺の名前は佐伯歩。理工学部3年」
「ふーん」
「別に聞いても意味なかっただろ」
「まぁね」
二人にとって、何も意味も成さない会話の初歩が、かろうじて成立する。