マリオネット・ワールド <短>
佐伯歩は、証明終了といわんばかりの勝ち誇った表情で、真っ直ぐに前を見据える。
「その、なんでも数式に当てはめる感じ、止めたほうがいいよ」
「ふーん。じゃあどうしたらいいわけ?」
「もう二度と会えないって思えたら、無意識に大事にしなきゃいけないって思っちゃうもんじゃん。それが人間の性ってもんでしょ?」
鳴海悠が放つ挑発的な言葉に、佐伯歩は少しも動じない。
「じゃあ、俺は人間じゃないのかもな。
どれだけの奴とすれ違ったって、俺の人生にはなんの支障もないと思ってる。
利用価値のある人間は自分で選べる自信もある。
ただ無作為に手当たり次第、出遭った奴を大切にするなんて、ただのバカ。
何も考えてない安易な奴がすることだ」
この男は完璧だ。
一寸の隙ひとつない。
何を言ったとしても、自分を上に立たせるようなことはしないのだと、鳴海悠は悟った。
「なかなか手強いわね、アナタ。友達いないでしょ?」
「そんなの、愚問だろ」
「……そっか。それもそうだね」
「ま、差し詰め俺は、アンタとの出遭いに大したメリットがあるとは思えない。
だけど、アンタが普通の奴とは違うことは、なんとなくわかる。
だから、ちょっと興味がわいて喋ってやってる」
「思いっきり、上から目線ね。そんな話し方してると敵しか増えないわよ?」
欠陥人間である女が、そう思わずにはいられないほど、男は更に上を行く欠陥人間だった。