マリオネット・ワールド <短>
「俺、その意味がよくわからないんだ。昔からずっと、俺はこの場所から人を見てる。
だから、俺にとって他人がいる位置は、当たり前に下なんだ」
「天才だもんね。周りはみんな、アナタとは並べるわけないよね」
「ま、そういうことだな」
「うん。いいよ、見下ろしてくれて。
私、アナタがどうこうじゃなくて、女より男の方が、この世界ではエライと思ってるから。
“強いものが勝つ”っていう自然の理に従えば、自然とそうなるもの」
“汚い生き物だとは思うけどね”
鳴海悠は、いつも唱えているその台詞を心の中だけで呟いた。
けれど、この男だけは特別だということを、鳴海悠は確かに感じていた。
――汚い、綺麗。
――男、女。
そんな低次元の話ではない。
生まれて初めて、自分が勝てない人間を、今自分は相手にしている。
ひたすら、全身でそう感じ続けていた。
「アンタってさ」
「何?」
「バカっぽい喋り方するんだな。そこらへんの低俗な女と同じような。疲れないのか?」
「別に?これが楽だもん。生きてくのに、こっちの方がいろいろ便利なのよ」
「俺みたいにしてればいいのに」
「女の場合、そうはいかないよ」
「ふーん」
心を覗かれたわけではなく、この女はただ自分を理解している。
佐伯歩の心の紐は、解けかけていた。