マリオネット・ワールド <短>
日本中の全ての人物が調べられるわけじゃないのだから、
フラリとどこか遠い地で、適当に誰かを殺す。
下手なアリバイなど作らなくとも、元々関係のない人物なのだから
自分が取り調べられることは、まずないと考えた。
もっと言ってしまえば、例え指紋を残したとしても、前科のない者にとっては
何の問題もないことのようにさえ思えた。
詰めの甘い部分もあることは認めるが、割と自信を持って組み立てた理論。
しかし、佐伯歩の放った一言は――
「警察はそんな甘くない」
という、いとも簡単に計画の不完全さを罵るものだった。
「誰にも見られていないと思っていても、何処かで誰かは見ていたりするものだ。
どんなに無関係だと思っていたとしても、必ず何かを伝ってでも、辿り着かれると思った方がいい」
「そうかな……」
「そんな運試しみたいなこと、俺は怖くてできないね」
嘘つけ。
その言葉とウラハラに、そう言いたくなるほど、男は“恐怖”をなんとも思っていない顔をしていた。
「それに、たとえ捕まらなかったとして、自分の手でやれば、
少なくとも15年は“殺人鬼である”というリスクを背負って生きていかなきゃいけない」
「うん。それはそうだね」
「どんなに完璧であろうが、その迫り来る恐怖からは、逃れられない」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「それから逃れる方法は、ただひとつ。罪に問われない殺人をすることだ」