マリオネット・ワールド <短>
必要な二人のやり取りは、全て手紙で交わされた。
ことが起きるまで、手紙が調べられることなど当然有り得ないし、
灰にしてしまえば、何も証拠は残さずに済む。
多少の手間はかかるが、それほど急ぐことのないこの計画にとって、
そのことは、特に支障をきたす弊害ではなかった。
電波の飛び交うこの時代に、この二人には特に似合わないような、
つくづく古典的なやり方を選ぶ可笑しさ。
それでいて、完璧な計算。
メールや電話は記録が残る。
人の手で作られた便利な技術はまた、人の手によって管理もされていることを忘れてはいけないのだ。
女の名前や生い立ちから始まり、普段の行動まで、下調べは全て鳴海悠の役目だった。
佐伯歩の役目は、ただ計画を実行すること。
喜劇の主役は、佐伯歩なのだ。
最高のものになるのも、ただの冷やかしで終わらせるのも、何もかもは佐伯歩の手に掛かっている。
鳴海悠の役目は、あくまでもサポート。
佐伯歩の計画が、できるだけ完璧に近付けられるように影となること。
それだけで、十分だった。
たとえ脇役でも、証明係でも、ただ、佐伯歩の書いたシナリオの中に参加できるということだけで、
鳴海悠は、なんとも言えぬ幸福を感じていた。
そして、佐伯歩という男が、その膨れ上がった期待を裏切らないことも、鳴海悠は知っていた。
ただの過大評価ではないからこそ、ここまでできるのだ。