マリオネット・ワールド <短>
もちろん予想通り、佐伯歩は完璧だった。
偶然を装って、有沢知美のバイト先であるコンビニに行き、
鳴海悠の見たことのない、まるで別人のような笑顔で、佐伯歩はターゲットに近付いてみせた。
そのやり方は、意外にも古典的で、見た目ではそこらへんのナンパ男が使う手と、さほど違いはなかった。
けれど、男との関係などはおろか、まともな人間関係など築いたことのないその女には、
驚くほど、最高の効果を示した。
男は知っていたのだ。
シンプルでわかりやすいやり方こそ、実は最も効率がよく、結果の得やすいものだということを――
元から何もない女の心の中へ、佐伯歩が入り込むことに、さほどの時間は要しなかった。
誰かと塗り替えることをしなくてもいい空っぽの心を、
“佐伯歩”という存在でいっぱいにすることにも、それほど手間は掛からなかった。
それは、巧みな佐伯歩だからこそ、できえたことなのかもしれないが。
有沢知美にとって“佐伯歩”という存在は、
自分を深い闇の底から救い出してくれる、奇跡に近い救世主であり、神同然の存在だったのだ。
そんな中、佐伯歩の手の平上でつくりだされた、
仮想の幸福の時だけが流れる有沢知美だけの場所に、望まぬ人物を登場させる。
それが、鳴海悠の何気ない一言から生まれた“ついで”に殺される人物だ。