マリオネット・ワールド <短>



有沢知美の手に掛けられる人物だけは、佐伯歩本人が見つけてきた。


佐伯歩や自分にはもちろんのこと、有沢知美にも何の関係もない人物であるということはわかっていたが、

生贄とも呼べるその人物が、どういう経緯で人選されたのか、鳴海悠は興味をそそられた。



そしてその条件は、有沢知美が殺しやすい人物……

すなわち、有沢知美が殺意を起こしやすい人物像に当てはまる者。


それが、このゲームの参加資格を得るために必要な合格条件だと、佐伯歩は言った。



要するに、有沢知美とは正反対の人物を選んだということだった。


社会に馴染み、人々の輪の中心にいるようなそんな存在。

自分は到底敵わないと、嫌でも思い知らせることのできる人物。



あとは、その女に佐伯歩を奪われてしまうかもしれないという、

切迫した危機感を持たせてやればいいだけだ。



誰だって、進歩は望もうとも、後退はできればしたくないもの。

一度光を見てしまったら、もう後戻りなんてできないのだ。



せっかく見つけた、自分にとって唯一無二の“佐伯歩”という存在。


それを奪われてしまうかもしれないという、焦燥感。

それも、自分は持っていないものを、何もかも手に入れている女に。



「自分にとっては、この人しかいないのに……

どうしてそれすら、アナタは私から奪っていこうとするの?

欲しいもの、なんでも持っているアナタが――」



そうやって、有沢知美の胸には、醜く、誰もが目を背けたくなるような感情が芽生える。


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