マリオネット・ワールド <短>
この計画最大の利点は、実行のやり易さだった。
何故なら、有沢知美との接触に、人目を気にする必要がなかったからだ。
だって、有沢知美が目的の殺人を果たし、自らの命を絶ち、その全てを終わらせた時、
たとえ“佐伯歩”や“鳴海悠”という人物が捜査線上に現れたとしても、何の問題も生じることはないのだから。
そしてそれは、様々なリスクを回避できることを意味していた。
殺人を示唆したことさえ知られなければ、
有沢知美一人が起こす一連の出来事に、巻き込まれることはない。
仮にもしも、有沢知美の口から誰かに漏らされてしまったとしても、
事の全貌を記す、遺書などというものを残されたとしても……
“有沢知美”という人物像は、容易に逃げ道を作り得ることを許してくれる。
――精神異常。
こんな便利な病気が、この世界には存在するのだから。
有沢知美の脳内だけで繰り広げられた絵空事。
気の狂った妄想。
音声だけで交わされたやり取りなど、録音されていない限り、証拠は残らない。
とことん惚け続ければいいだけの話だ。
その上、有沢知美が命を奪う相手と、二人は無関係なのだ。
よって、この完全犯罪に動機はない。
当然あるべき、根本的なものを取り除くだけで、99パーセントが捕まる“殺人”という犯罪は、
いとも簡単に、残り1パーセントのごく少数の中に、入ることができてしまうものだったりするのだ。
あえて言うなれば、この計画の目的は“完全犯罪を成功させること”。
そんな理由、誰がどこから持ち出して、この二人に突きつけることができるというのか。
常人がつくった常識の中で生きる人々に、そこから逸脱した二人を裁くことなど、到底できやしない。
それこそまさに、ある意味でテレビドラマの世界でよくある密室よりも不可思議な、不可能犯罪――