マリオネット・ワールド <短>
しかし、被害者には、ごく一般的な家族がおり、交友関係があった。
テレビで数分流れるニュースと違い、身近な関係者にとっては、移り変わる毎日のようにはいかない。
だから、その葬式は、誰もが胸を痛め、涙で溢れるものだった。
その一方で、有沢知美の方は、その当たり前を所有していなかった。
施設で育った有沢知美に、家族はなし。
引きこもりがちな性格のため、交友関係は皆無。
定職に着かず、日々のバイトで食い繋ぐ生活。
そのおかげで、というとおかしな話だが、死んだ有沢知美の身代わりに、
一生、罪の十字架を背負って生きていかなければならない人物はいなかったのだ。
親や兄弟。
世間という冷たい目にさらされ、責めを追うべき人物が……
怒りや憎しみをぶつける相手を失った被害者遺族は、永遠に昇華できないそれを
胸の真ん中に、深く刻むこととなったのである。
そして、有沢知美の口から、その動機を聞き出す術を永遠に失ったこの事件は、
消えないわだかまりをも、残していった。
……そう。
この世界で、真実を知る希望は、0になったはずだった。
しかし、本当は――
真相を知る者は、この世に二人。
慌てふためく人々の頭上から、糸を操っていた人物がいたのだ――