マリオネット・ワールド <短>
平行線
――0時34分発。
最終電車、最後尾。
ガタン、ゴトン。
適当なバランスの取れたリズムを刻みながら、規則正しく前へ前へと進む列車。
その車内は、まるで世界と切り離されたかのように、静寂に包まれていた。
騒音を撒き散らしているクセに、物音ひとつない不思議な空間を創り出している。
向かい合うように作られた座席で、一人の男と一人の女が対座していた。
互いに目の前に座ってはいるが、目と目が向かい合うことはない。
男は、ブックカバーの付いた分厚い文庫本に表情ひとつ動かさず、目だけを上下に走らせている。
何を読んでいるのかは確認できないが、確かに教育されたと物語る男の成り立ちは、
一般人が見向きもしないような、むしろ敬遠するような代物を扱っていることは、明白だった。
一方で女は、窓の外で流れる景色を眺めているのか。
それとも暗闇の窓に映った薄暗い自分の顔を眺めているのか。
あるいは目の前のものが、女の瞳に映っているというだけで、本当は何も見てなどいないのか……
女は、車内に身を置いているにも関わらず、決してその場所には、正しく心を置いていなかった。