一番は君

登校中に


 早々と自転車を漕いでいると体に当たる風に身震いした。

 今年は特に冷え込んでいてニュースでも話題になっている。
 気温が上昇したり下降したり激しく揺れ動いていて、今朝は最低六度以下らしい。

 俺、晴島早人(はれじまはやと)は自転車を漕ぎながら肩を小さく縮めた。
 
 学校までの道のり二十分。
 
 最終の馴染みである急行な坂道にさしかかった時、いつものように起立して漕いだ。俺はこの先、五分ほどの山の頂上にある『山中』という他校から異名を持つ賛郷中学校に通っている。

「はあ」

 登りきり座り漕ぎに変えた。ぐいっと右足を上げ、ぐっと押した。
 しかし前方に黒い影が見え、慌ててブレーキをかけた。

 真っ黒い服に身を包んだ人影が道路の隅に倒れていた。小綺麗なスーツ姿。浮浪者には見えない。この寒さでは凍死、ケガ、まさか殺人者・・・。不安が頭によぎった。

 自転車を道路の端に止めて駆け寄りかがんで顔を伺った。

 目はきつく閉ざされ、唇は紫色に変色し荒れている。色白の顔は二十代後半から三十代前半あたりだろうか。無精髭が少し伸びていた。

「お・・・い、あんた」
 
 心臓が収縮して指先が震え出した。死体だったら・・・と息を詰めて軽く、吐き出した。

 しばらくすると何も聞こえなかった吐息が軽く吹きかかると、白い煙に似たものが冷気と一緒に舞った。


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