一番は君

進也

単純な考えでさっそく進也を学校に連れ出すことにした。
 すんなりいやな顔をせずに無言で制服に着替えて玄関から出てきた時は、正直驚いた。
 俺はいつもの通り、自転車を引きずり進也は歩き出した。

「大丈夫。誰もお前のこと悪く思っていないよ。今、思春期突入時期だから女の尻ばっかりみてるよ。受験もあるしね」
 
 山下なんか。
俺は進也の顔を伺いながら、話した。うつむいたり、横顔が和らいだり。口元が上がったりすると嬉しくなった。
 夢中になって聞かせた。
 こんな俺でもこいつを少しでも救えることができていると思うと興奮した。
 
 俺と進也はあの坂道を登っていた。
 話す会話も途切れ、無言の中で進也のため息ばかりが耳につく。
 二人の乱れた息が重なり、俺が疲れたと呟くと進也は笑みを返した。
自転車をひきずっていた俺は進也より疲れているように感じる。
 だが、途中で止まってしまえば転び落ちてしまいそうな気がした。

「なあ、かわってくれないか。腕つった。悪い、かわりに荷物持つから」
 
 進也は黙々と俺の言葉通り、かわってくれた。進也のその生真面目さや潔癖みたいな雰囲気は、自分とは正反対だと思った。
 自転車の引きずり方にしろ、俺の場合、自転車より身体は後ろになり、尻が後ろ側に突き出てしまう。非常にかっこ悪い。その上に猫背なのでマヌケである。
 進也の背中はピンと上に伸び、駆け登るようで自分の背筋を伸ばしたくなった。

 こんな身勝手な俺。
 それでも何を言われても、断らない進也。
 
 もしもここに善悪のわからない人間がいたとしたら、人はそれを見つめて何を思うのだろう。
 きっと進也は自分に降りかからないように周りを見渡すのだろうか。
 小さく、邪魔にならないように。
 逆らわないように。

「なあ。何でお前は逃げているんだ」

 何気なく、出た言葉に後悔した、
 坂を登りきったあとだった。
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