―Destiny―


そこに、かんなさんの名前は挙がらなかったけれど……。

大将と連名で、かんなさんの名前を書いたあたしに、お母さんは笑みを浮かべながら言った。



『みんな、楽しみにしているだろうね』



いまだに、あたしの家のなかでは、かんなさんや、それに纏わる昔の話はされない。

それでも、お母さんの態度を見ていれば、少しずつ和解に向かっているんだろうと思えるようになってきた。

お母さんが常用していた精神安定剤も、薬箱の中から消えたと、お父さんに聞いた。





「――それでは、指輪の交換を……」



促されて、あたしと奏汰は互いの指に嵌めるリングを手に取る。


本来なら、あたしたちの左手薬指に納まるのは結婚指輪だけなのに。

どうしても、と、お願いして、二つの指輪を嵌めることにした。


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